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大阪地方裁判所 平成11年(わ)5222号 判決

主文

被告人を懲役一年四か月及び罰金二〇〇万円に処する。

罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人は、インドネシア共和国からほ乳綱霊長目テナガザル科ヒュロバテス・モロク(ワウワウテナガザル)一個体を輸入しようと企て、同個体は、輸入貿易管理令により、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約附属書Ⅰに掲げる種に属する動物として、輸入割当てを受けるべき貨物として公表されており、同貨物を輸入するに当たっては、同法令の定めるところにより、通商産業大臣の輸入の承認を受けるとともに、税関長の輸入の許可を受けなければならないのに、その承認及び許可を受けないで、平成一〇年八月一二日午後九時四〇分ころ、同国スカルノハッタ国際空港から、ガルーダ・インドネシア航空八八〇便機に搭乗するに際し、右ワウワウテナガザル一個体をキャリーケースに隠匿して、情を知らない同航空会社社員をして同機内に搭載させ、翌一三日午前九時二五分ころ、千葉県成田市古込字古込一番地の一所在の新東京国際空港に同機が到着した際、情を知らない同空港職員をして同キャリーケースを本邦内に取り降ろさせた上、同日午前一〇時〇五分ころ、同キャリーケースを携帯したまま同空港内新東京国際空港税関支署旅具検査場を通過して、これを本邦内に引き取り、通商産業大臣の輸入の承認を受けず、かつ、税関長の輸入の許可を受けないで右貨物を輸入した。

第二  被告人は、法令の定める除外事由がないのに、平成一〇年八月一三日、大阪市北区《番地省略》所在のペットショップ「A野ワンワンランド」において、Aに対し、国際希少野生動物種である前記ワウワウテナガザル一個体を代金六〇万円で譲渡しをした。

第三  被告人は、A及びBと共謀の上、インドネシア共和国からほ乳綱霊長目ヒト科ポンゴピュグマエウス(オランウータン)一個体及びほ乳綱霊長目テナガザル科ヒュロバテス・スュンダクテュルス(フクロテナガザル)一個体を輸入しようと企て、同各個体は、輸入貿易管理令により、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約附属書Ⅰに掲げる種に属する動物として、輸入割当てを受けるべき貨物として公表されており、同貨物を輸入するに当たっては、同法令の定めるところにより、通商産業大臣の輸入の承認を受けるとともに、税関長の輸入の許可を受けなければならないのに、その承認及び許可を受けないで、平成一〇年九月一六日午後一一時三〇分ころ、Bにおいて、同国スカルノバッタ国際空港から、ガルーダ・インドネシア航空八八〇便機に搭乗するに際し、右オランウータン一個体及びフクロテナガザル一個体を木箱に隠匿して、情を知らない同航空会社社員をして同機内に搭載させ、翌一七日午前九時〇一分ころ、前記新東京国際空港に同機が到着した際、情を知らない同空港職員をして同木箱を本邦内に取り降ろさせた上、同日午前九時三〇分ころ、同木箱を携帯したまま同空港内新東京国際空港税関支署旅具検査場を通過して、これを本邦内に引き取り、通商産業大臣の輸入の承認を受けず、かつ、税関長の輸入の許可を受けないで右貨物を輸入した。

(証拠)《省略》

なお、弁護人は、判示第二の事実について、ワウワウテナガザル一個体の代金は三〇万円であった旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。しかしながら、譲渡しの相手方であるA及びAと共謀して譲受けをしたBは、いずれも、右譲受けで起訴される以前から、本件ワウワウテナガザルを含むサル二頭を代金合計一二〇万円、すなわち一頭六〇万円で譲り受けた旨一貫して供述していること、平成一〇年八月から九月にかけて、本件ワウワウテナガザルのほかもう一頭よく似たサルがいたことは、C子らA野ワンワンランドの従業員の供述によっても裏付けられていることなどに鑑みると、A及びBの右供述の信用性は高いものと認められる。これに対して、被告人の供述は、ワウワウテナガザル一個体の代金が三〇万円であったという点では一貫しているものの、譲渡しをしたのが一個体であったのか、よく似たサル一頭も譲り渡して合計六〇万円を受け取ったのか等重要部分において合理的理由のない変遷を重ねており、信用することができない。

以上によれば、本件起訴に係るワウワウテナガザル一個体の代金は、判示のとおり六〇万円であったと認定することができる。

(法令の適用)

罰条

第一、第三のうち

通商産業大臣の承認を受けないで各輸入した点

外国為替及び外国貿易法七〇条三三号、五二条、輸入貿易管理令九条一項、三条一項、四条一項一号、昭和四一年通商産業省告示一七〇号(輸入割当てを受けるべき貨物の品目、輸入についての許可を受けるべき貨物の原産地または船積地域その他貨物の輸入について必要な事項の公表)一・第2・1(第三につき、さらに、刑法六〇条)

税関長の許可を受けないで各輸入した点

関税法一一一条一項、六七条、同法施行令五九条(第三につき、さらに、刑法六〇条)

第二

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律五八条一号、一二条一項、同法施行令一条二項

科刑上一罪の処理(第一、第三)

刑法五四条一項前段、一〇条(犯情の重い税関長の許可を受けないで輸入した罪の刑でそれぞれ処断)

刑種の選択

第一、第三 いずれも懲役刑と罰金刑を併科

第二  懲役刑を選択

併合罪加重

刑法四五条前段、(懲役刑につき)同法四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)、(罰金刑につき)同法四八条二項

労役場留置

刑法一八条

訴訟費用の不負担

刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、被告人が、国際希少野生動物種であるワウワウテナガザル一個体を密輸入した上、ペットショップ経営者に有償で譲渡し、さらに、同人らと共謀の上、同様のオランウータン及びフクロテナガザル各一個体を密輸入したという外国為替及び外国貿易法違反、関税法違反、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律違反の事案である。

被告人は、長年にわたりインドネシアから民芸品等を輸入販売してきたが、経済的利益を得る目的で、オランウータンやテナガザル類が、ワシントン条約により国際的取引を規制された動物であることを明確に認識しながら、これらを密輸入するなどしたもので、目的のためには手段を選ばない身勝手な犯行動機に酌量の余地はない。被告人は、自ら日本国内にワウワウテナガザルを持ち込んで、ペットショップ経営者に代金六〇万円で譲渡したばかりでなく、仲介手数料を得るため、同人らとともにインドネシアに赴き、現地の動物商宅に案内するなどして、オランウータンとフクロテナガザルを買い付けさせた上、同国からの持ち出しに当たり発覚し難い手段を講じたり、実行犯を務めたペットショップ従業員に、日本国内への持ち込みの際、税関の旅具検査で発覚を免れる方法を教えるなどしたもので、犯行態様は巧妙悪質である上、被告人なくしてオランウータン等の密輸入に成功することは困難であったと認められ、共犯事件に果たした役割も大きい。密輸入された動物のうち、オランウータンは、間もなく死亡しており、フクロテナガザル等は押収されて原産国に返還されたものの、野生復帰は容易でなく、本件の結果もまた重いといわなければならない。加えて、野生動植物種の保護が国際的な規模で重要性を増しつつある今日の状況を考えると、本件犯行が社会に及ぼした影響も看過できない。

そうすると、被告人の刑事責任には軽視し難いものがあり、被告人が、財団法人自然環境研究センターのオランウータン基金に一〇〇万円を寄付し、被害回復に努めていること、大筋で本件各犯行を認め、反省の態度を示していること、前科前歴が全くなく、これまで大過なく社会生活を営んできたこと、その他年齢や健康状態など被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても、主文の刑に処することが相当と思料する。

(検察官 川原幸夫、私選弁護人(主任)山上耕司 各出席)

(求刑 懲役二年六月及び罰金三〇〇万円)

(裁判官 後藤眞知子)

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